「これからは茶色や黄色の時代」 「白人は男色と携帯電話とドラッグで自滅した」 すごいセリフ・・。

現在は富豪になっているらしき主役のバルラム。
数年前であろう自動車事故に遭遇してしまったシーン、そしてそこから時代は更に遡り、バルラムの賢かったが貧乏だった少年時代から運転手になるまでの彼の人生を辿ります。
ブッカー賞を受賞した原作「グローバリズム出づる処の殺人者より」が出版されたのは2009年。
★以下ネタバレ★今まで見て来たインド映画って、そこまで人が良いなんて!良い人過ぎるだろ!って事が多かったので、本作はご主人を殺してお金を持ち逃げ、そのお金を使って警察に賄賂、タクシー会社を経営し成功する、というストーリーになっていて、結構いや、かなり悪い人なんですよね。そこが他の映画と違っていて、びっくりしました。
ご主人は殺される程の悪人では無かったし・・・。
とはいえ、婚約者のピンキーが起こした人身事故を、バルラムがしたことにするというのはね・・・。まあ、ありがちですが・・。それでも被害者が被害届を出していなかったため、なあなあにはなりましたが・・・。
その後、ご主人を殺害して、お金を持ち逃げしてから成功するシーンはラスト10分位の短い間に、さーっと語られるだけなんですよ。
元々、賢く、才覚があったからの成功でしょうけれど・・・
途中で、村で17人だか殺された事件がニュースになっていて、これはバルラムの故郷の家族が報復の為に殺された、、って事なんでしょうか・・・
最後、タクシー会社を経営するようになってから、社員が車で子供を轢いて死なせてしまうという事件を起こすのですが、その時のバルラムの対応が、大金を慰謝料として家族に差し出し、死んだ子供の兄を、会社で雇用し面倒を見るという対応をしたんですよね。かつて同じ立場になった時に取ったアシュカ様とその家族のやり口とは違った対応には、やるな!と思いました。以上
こういう風に誰かが事件を起こしたら、その家族も酷い目に遭う(殺されるとか・・)っていうの、怖いですね・・・ 連帯責任というか。
バルラムの家族は祖母が嫌な人って描写は一杯あったけど、そもそも、なんであの祖母があれほど一族の中で権力を持っているのか・・?
自分が悪い事して逃げ通せても、家族が殺される、、となると、なかなか勇気出して行動出来ないですよね・・。
映画が面白かったので、ブッカー賞受賞したという原作本も読んでみました。(2009年なので、もう10年以上前になりますが) 原作を書いたのはインドに暮らしているイラン人の作家さんで、海外の大学に留学・暮らした経験も豊富な方だそうです。
原作を読んで気がついたこと、思った事等ほぼ原作と映画は同じで、凄く上手に映像化されています。
分量的にも、後半成功していく経緯はとても短くまとめられている処も同じでした。
些細な処ですが、ホンダ・シティがアシュカ様の高級愛用車でした。映画では三菱パジェロでしたね。
ちなみに40年位前シティに乗ってました。
尚、ホワイトタイガー社のタクシーの車は、トヨタでした。
インドの警察や教師が(一部であることを願うばかり)賄賂やお金に汚くて、腐敗していることを本では強く書かれていて、映画ではマイルドになっていました。
また、映画でもちょっと出て来ましたが、三流雑誌のタイトルに、「強姦」というタイトルが頻繁に使われている事。
他のインド映画でもジョークとして登場していましたが、これは絶対に笑えないし嫌だな。
ネパール女性は、インド人の男性からすると外国人であり(まあ当然ですが)、かつ魅力的に見える様だという事。色が黄色くて目がしゅっとしていてソソられるみたいな表現を使っていました。 日本人の私からするとネパールとインド人の差がそこまでハッキリ把握できなかったんですけれども。日本人と韓国人の差が欧米人には解らないような、ひとくくりにされがちなのと似た感じかな。
北インドでは貧しい人が飲む飲み物はチャイで、南インドでは珈琲である。北出身のバルラムが南インド料理のカレーを食べて水分が多い状態であることに違和感を感じる描写もありました。私は北インドのも南のも大好きです。
ITで急激に伸びた都市(この作品でのバンガロール)は、アメリカと電話で会議したり交渉が多い為、深夜が一番仕事のピークだが、その時間インドの交通機関は動いておらず、そのため深夜タクシーが非常に重宝される。特に女性の社員は危険なのでタクシーでの送迎は必須。企業は決まったタクシー会社と契約していることが多い。流しではないため、安定した長期の収入が得られますね。
映画では警察に大量の賄賂をドンと渡したシーンだけでしたが、小説では具体的に、警察のお偉いさんが賄賂の見返りに、それまでその町を仕切っていたタクシー会社に難癖つけて(急にドライバーに運転免許書があるかどうか等手入れをしため)、営業できなくなってしまい、その顧客をホワイトタイガー社に回してくれるようにした事が書かれていました。 最初から自力でお客を一杯getできたわけじゃなかったんですね。
また、そういう企業は、人材不足で人員募集が凄い事。でも、そういう企業で働けるような人が少ない。しかし学の無い下層の人は、探しても仕事は無くて困っている事・・・。
最後一緒に逃げたダラム(親類の子)が、口には出さないものの、すべてお見通しであり(パルラムの弱みを握っているが、今は彼の保護の元でなくては生きていけないことも解っているので、大人しく従っている)、映画でも自己主張強くアイスを求めるシーンがあったけれど。将来彼がどういう態度・大人になるかによって殺すも生かすも・・・と考えていること。現在ダラムはバンガロールの英国式の学校に通って高度な教育を受けているそうです。
檻の中に入れられて搾取されるだけの人生で甘んじている人が殆どで、そこから抜け出したり、雇い主にかみつく事が無い最大の理由が、何か自分がやらかすと、親類に被害が行くから・・・というのがね、、、
また、人間生まれつきの環境や身分に長年浸っていると、それが普通・当たり前になってしまい、なかなか身についた思考や態度を変えられないというか、洗脳されてしまうというか・・・ 色々と考えさせられる内容で、とても面白かったです。
以下、余談です
昔、1991年にインドに友達と旅行に行った時、最後泊まるホテルに送ってもらった後は、ガイドさんと運転手さんと解散、翌日また集合みたいな感じだったんです。 それまで参加したことある周遊ツアーっていうのは、添乗員さんが最初から最後まで同行、同じホテルに泊まり、各移動先には、そこに住む担当者が追加で参加するってスタイルだったのですが、そのインドツアーは日本人のガイドがおらず、ずっと全行程通しで同じインド人の方だったのです。
あの時のガイドさんや運転手さんが私達とは違うホテルに泊まっているんであろうことは想像ついていたのですが(その時も複雑な心境だったけれど・・)、もしやこの映画みたいに同じホテル内のキツイ部屋に滞在していたんだろうか・・・・。2人は、またそれぞれ別のランクの部屋だったりしたのかしら・・・・
それと、そのツアーで、観光の途中どこかに立ち寄る時、たとえ数分でも車のエンジン・エアコンを毎回切ってしまうんです。だからせっかく冷えた車内が暑くなっていて、何故毎回止めてしまうのか?と、謎に思っていたのでしたが、この作品を見て今更ですが解りました。運転手だけ1人で待っている時に余計なエンジン・エアコンはかけてはいけない決まりがあったのですね・・・。
凄い長くなってしまい、もし最後まで読んで下さった方がいらっしゃったら、すいません、ありがとうございました。
原題:THE WHITE TIGER
2021年 インド、アメリカ
監督:ラミン・バーラニ
出演:アダーシュ・ゴーラヴ、ラージクマール・ラーオ、プリヤンカー・チョープラ、マヘーシュ・マンジュレーカル、ビジェイ・モーリャ
内容・あらすじ インドの貧しい村出身の青年バルラム(アダーシュ・ゴーラヴ)は、裕福な一家の運転手となる。生まれた身分から使用人になるしかない彼は、抜け目なく立ち回り主人からの信頼を得ていくが、ある出来事をきっかけに、野心的なバルラムは不公平で腐敗した社会に服従するのではなく、自ら運命を切り開くべく立ち上がる。